CONCEPT         

                       大谷の家 設計主旨

 大谷石の産地である大谷町は建設地から車で10分程の所にあります。大谷石は加工容易安価で素材感が良いという特長を持っています。有機物を含む暖か味の有る表情は切り出してから刻々と色を変化させ、自然素材ならではの味わいを見せてくれます。衆知の通り建築家フランク・フロイド・ライトによって旧帝国ホテルに使用されましたが大部分は高度成長期に宅地不足を解消すべく石垣・塀などに大量消費れました。残念なことは、この独特な風情を持つ素材が殆ど雨ざらしになるような部位に使用されて来た事です。特に宇都宮市内によく見うけられる塀は、雨だれによって汚れが生じ風化を早め視覚的イメージとして閉塞感があります。

  大谷の家では大谷石を建築の基壇とし、その上に木造の大屋根を乗せる構成としました。このような建築様式はこの地方の民家蔵等日本でも数少ない純粋な石造建築として現存しており100年以上経過しているものもあります。基壇の上に乗る一間余り持ち出した大庇が車寄せとしての軒下空間をつくり雨掛かりを防いでいます。又北側の遊歩道からの景観として一般に有りがちな閉ざされた建物でなく、透けて開きながら私生活は見えない工夫をしています。

木造部分の木材は施主の地縁により那須町伊王野の木材問屋から間伐材等を購入し同地の大工によって加工され建設されました。構造材も造作材も総て無垢です。木材数量は大屋根を最大限に空間利用した事と架構の合理化により平屋建て並みの石数で済みました。屋根はアルミ亜鉛メッキ鋼鈑葺きとし、この地方の民家によく見られる菱葺きとしました。小屋根群は積雪時に滑雪する雪を分散するための仕掛けです。
 外壁は大壁で漆喰塗りとし内壁は木の呼吸を考慮して真壁として部屋に合わせた各種左官仕上
としました。階段室の吹き抜け天井は、施主との共作で和紙調垂れ幕とする事で容易にカテナリー曲面をつくれました。又玄関には益子で譲って頂いた益子焼タイルを貼っています。こうした事の積み重ねと良心的な職人に恵まれたことにより坪単価約40万円というローコストで大谷の家は完成しました。

完成してから振り返ってみると、計画当初より、この地を直に見て廻り様々な事、物、人の縁に依って起った創作意欲が最終的な形に結実したと感じています。いわば[地湧の建築]です。デザインの意味は表現主義にあるのではなく、人の営みの中にあると思います。

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